【2018/19まで】バルセロナの財政について【前編】

アルトゥール移籍の財政的理由を検討した前回の記事で、2017/18に「収益と費用の均衡が崩れた」という話に触れましたが詳細には言及しませんでした。

今回の記事では、実際にデータを見ていきます。

 

前回の記事はこちら。サッカークラブ会計の基本的な処理についてもこちらで触れています。

kaikeiminarai.hatenablog.com

 

損益計算書の比較

 

損益計算書とは、収益と費用から企業の経営成績を示す表のことです。この表を見れば、企業が1年間にどれだけの利益(収益  費用)を生み出しているかがわかります。 したがって、今回のテーマに適した財務諸表というわけです。なお、サッカークラブの場合の1年間は、20X1年7月1日から20X2年6月30日を指します。

損益計算書を見る前に用語の定義だけ最初にしておきます。独自に定義しているのもあるので。

 

- 売上高(+)

選手売却による収益と金融収入(受取利息など)を除いた全ての収益。選手売却による収益も本来は計上するが、今回はあえて除外。

- 営業費用(−)

金融支出(支払利息)と減価償却費を除いた全ての費用。選手・スタッフの給料や売上原価などが該当。費用科目は赤で色分けしてあります。

- EBITDA

正式名称「Earnings Before Interest, Tax, Depriciation, and Amortization」。税引前当期純利益に支払利息と減価償却費を加えた指標。今回は「EBITDA = 売上高 - 営業費用」と独自に定義。

- 減価償却費(−)

前回の記事でも登場した固定資産にかかる毎年定額で計上する費用。

- 金融収支(+/−)

主に借金の利息の収入と支出を合算したもの。収入>支出ならプラス、逆ならマイナス。

 

以上を+/−にしたがって計算すると、「税引前当期純利益 - 選手売却による利益」が算出されます。前回の記事では、調整後当期純利益と呼んだやつです。これに選手売却による利益を加算すれば、税引前当期純利益にたどり着きます。

それでは、損益計算書を見ていきましょう。最初に比較するのは、2016/17と2017/18です。

  

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上から順に見ていくと、売上高の伸び率はわずか3.4%で1年間であまり変化していません。 

営業費用内の項目を比較すると、「給料 - スポーツ関係」という項目が€146.8mも増加しています。これは選手やチームスタッフなど競技に直接関わる人員の給料(ボーナス・解雇給付も含む)を指します。営業費用全体では€155.7m増加していますが、大部分を選手等の給料が占めることがわかります。

EBITDAは、2016/17が€89.5mの黒字の一方、2017/18は€43.3mの赤字という真逆の結果になりました。営業費用の増加の影響が見られます。

次に減価償却費を計上します。減価償却費は、選手登録権(詳しくは前回の記事)とその他固定資産(施設などの固定資産)で区分します。その他固定資産の減価償却費は変化がほぼないのに対し、選手登録権の減価償却費は€51.6mも増加しています。

最後に金融収支を加味すると、前回の記事で算出した「税引前当期純利益 - 選手売却による利益」の数字にたどり着きます。2017/18は、前年を遥かに上回る€187.6mの赤字を計上しています。

 

以上の比較で判明したのは、収益の伸び以上に選手等の給料と選手登録権の減価償却費が膨張していたことです。2017/18の財政状態は誰がどう見てもマズいので、気になるのはこれがその後どうなったかです。ということで、2017/18と2018/19を続いて比較します。

 

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売上高の成長が著しいですね。特に顕著なのが前年比€110.7m増の放映権収入です。「デロイト・フットボール・マネー・リーグ 2020」によると、この増収は2018/19からスタートしたUEFA新しい放映権契約とCLベスト4進出が要因だそう。商業収入の増加は、ライセンスや商品の管理体制の刷新による効果とのことです。

営業費用は全体で前年比€45.1m増で、1つ前の比較ほど劇的な変化はないですね。選手等の給料に至ってはたった€4.5mの増加、伸び率にするとわずか0.9%です。前年比で見るとその他営業費用の増加が目立ちます。内訳を確認したところ、売上原価の増加が要因でした。これは商品の製造や仕入にかかった費用で、商品売り上げ時に「売上(収益)」とともに計上します。すると、「売上 - 売上原価」が利益となります。上述した商業収入の増加と関連がありそうですね。

EBITDAは、€76.7mの黒字を示しました。なんと、前年比で€120mの増加です。だいぶ数字が改善しましたが、続きも見ていきましょう。

減価償却費は、1つ目の比較と同様に選手登録権の減価償却費が大部分を占めます。この減価償却費は€26.9mの増加で、選手等の給料より増加額が多いですね。

最後に金融収支を考慮すると、 2018/19の「税引前当期純利益 - 選手売却による利益」は€97.2mの赤字になりました。€187.6mの赤字を計上した前年度よりはマシですが、この段階での黒字化は2年連続で達成ならず。

 

こちらの比較では、収益が急増してEBITDAが黒字に回復したにも関わらず、「税引前当期純利益 - 選手売却による利益」は引き続き赤字だとわかりました。つまり、収益の成長で給料の増加分はカバーしきれても、減価償却費が黒字実現の許容範囲以上に拡大していたことがわかります。減価償却費の増加要因は選手獲得による選手登録権の増額だけなので、コウチーニョデンベレをはじめとする過剰な選手補強が財政悪化に寄与している実態を数字から見て取れます。

 

以上のように損益計算書を比較してみましたが、なんとも無難な内容になってしまったので、次回の記事では給料と減価償却費をもう少し掘り下げます。

 

...と発言しましたが、酷い出来になることが予想されたので、次回の記事ではキャッシュフロー損益計算書に視野を広げることにしました。

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