コロナ禍にも関わらず、ブラガが過去最高の最終黒字を記録した理由

こんにちは。会計見習いです。

本題に入る前にお知らせです。

先日発売された『フットボリスタ第81号』にて、「アルトゥールとピャニッチの「等価交換移籍」に学ぶ移籍会計の仕組み」というテーマで記事を寄稿させていただきました。当ブログでも過去に取り扱った話題ですが、より最新の情報を反映し、会計学初心者の方にもなるべく理解しやすいように仕上げておりますので、ぜひご覧ください。

 

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さて、今回取り扱うブラガは、先日の決算発表でクラブ史上最高の最終黒字(当期純利益)を記録したことを明らかにしました。多くのクラブが新型コロナウイルスの感染拡大による影響で赤字に苦しんでいる中で、このような業績は極めて異例です。

以下の図表は直近5期の当期純利益を表したものです。2019/20だけ数字が飛び抜けていますね。実は、2018/19の€6.2mも当時のクラブ記録となる純利益でしたので、2年連続で記録を更新しています。

 

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今回の記事では、ブラガが過去最高の当期純利益を記録できた理由を考えていきます。

 

1. 損益計算書の比較

 

利益の実態を理解するために損益計算書を比較します。損益計算書とは、企業が1年間(会計期間)にどれだけの利益を生み出しているかを示す表です。

ここで使用するのは、2019/20と2018/19シーズンの損益計算書です。2019/20ならば2019年7月1日から2020年6月30日2018/19ならば2018年7月1日から2019年6月30日までが会計期間です。

 

それでは、損益計算書を見ていきましょう。

 

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用語の定義

EBITDA = 売上高 + 臨時収入等 + 営業費用

当期純利益 = EBITDA + 減価償却費 + 金融収支 + 選手売却による利益 + 法人税

※赤色の数字はマイナス

 

まず、売上高内のUEFA主催大会収入」「臨時収入等」で数字が著しく変化していることがわかります。

UEFA主催大会収入とは、CLまたはELに出場して得られる放映権料やボーナスなどを含んだ項目です。以下の表からもわかるように、2019/20のブラガはELベスト32まで進出しましたが、2018/19はEL予選3回戦で敗退しました。そのため、2019/20は€10.8mを獲得できましたが、2018/19は€0.3mに留まりました。

 

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臨時収入等とは、売上高の主要4項目に含まれない収益をまとめた項目です。特殊な事情で発生した収益を含むので、シーズンによって数字がばらつきます。例を挙げると、2018/19に計上した€4.2mの半分以上は、ギリシャPAOKによるアベル・フェレイラ監督(当時)の引き抜きによって発生した収益です。では、2019/20に生じた特殊な事情とは何だったのでしょうか。その答えは、2018/19と同様、監督の引き抜きです。

2020年3月4日に、当時ブラガの監督を務めていたルベン・アモリムスポルティングの監督に就任しました。その際、スポルティングアモリムの契約解除金€10mをブラガに対して支払う約束をしました。しかし、その後スポルティングが支払いを滞納したことにより罰金が追加されたので、ブラガは解除金の€10mを遥かに上回る額を臨時収入等として計上できました。罰金の正確な額は公表されていませんが、臨時収入等の大部分を占めると年次報告書には記載されています。

 

 

売上高の他の項目を見ると、入場料収入は微増しています。これは、新型コロナウイルスの感染拡大によるリーグ中断の影響でリーグ戦の試合数は減少したものの、EL出場によって全体の試合数が増加したためです。一方、放映権収入は国内戦の分のみを計上しているため、リーグ中断の影響で減少しています。商業収入はスポンサー収入を含む項目で、2019/20にいくつかの新契約を結んだため、増加しています。

 

次に、売上高以外の項目である程度の変化が見られるのは、「営業費用」と「選手移籍による利益」です。営業費用は人件費などクラブ運営に要した費用を含む項目で、2019/20は前年度と比べて€5.8m増加しています。増加の要因は、ELの好成績および国内カップ戦優勝による関係者へのボーナスEL本戦出場による遠征費です。

選手移籍による利益は、€3.5mの減少です。これは、移籍によって得た利益ですので、シーズンによって数字がばらつく項目です。2019/20はトリンカオ(現バルセロナ)の移籍のみで€22.3mの利益を記録しました(全体は€24.4m)。一方、2018/19はヴクチェヴィッチ(現レバンテ)、ネト(現ウルブズ)など市場価値の高い複数選手の移籍で€27.8mに到達しました。

 

 

最後に、税引前当期純利益に着目します。税引前当期純利益は、€16.9m増加しています。しかし、税引前当期純利益からUEFA主催大会収入と臨時収入等を差し引くと、18/19の方が残額が多いことが以下の図から読み取れます。つまり、この2項目を除いた全体の利益は減少しているのです。

 

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以上を踏まえると、新型コロナウイルスの感染拡大により国内戦の放映権収入は減少し、EL本戦出場と国内カップ戦優勝により営業費用は増加しました。また、選手売却による利益も減少しました。これらはクラブ記録の18/19比で、税引前当期純利益を減少させる要因として作用しました。その一方で、ELでの躍進アモリムの契約解除金および追加罰金が収益の大幅な増加に貢献したことで、ブラガは過去最高の当期純利益を記録できました。

 

2. 今後の展望

 

19/20シーズンをリーグ3位で終えたブラガは、トリンカオとパリーニャ以外に当時の主力が流出することなく、20/21シーズンに突入しています。トリンカオは完全移籍で19/20に利益を計上済み、パリーニャはスポルティングからのレンタル移籍でしたので、20/21の選手売却による利益は前年比で大きく下落することが予想されます。

臨時収入等についても、アモリムの契約解除金に関する新たな支払契約が成立したとのことですので、スポルティングがこれ以上延滞しない限り、収益は発生しないと考えられます。

したがって、収益が大幅に減少するため、20/21は最終赤字が予想されます。

 

一方、21/22以降では当期純利益の新記録樹立も十分に考えられます。21/22にはポルトガルの協会ランキングがロシアと入れ替わり、ポルトガルのCL出場権が3枠になります。よって、19/20のようにリーグ戦を3位以内で終えることができれば、CL本戦出場が目前に迫ります。CL本戦に出場した場合に得られる収益はELの数倍上ですので、記録更新の可能性があるということです。

また、今季のポルトガルリーグは、ポルトの主力が大量流出した(詳しくはこちら)ことで、勢力図が変化する可能性があります。この点、19/20の主力の流出が少ないブラガは有利な立場にあると思われます。

ブラガには今後も注目していきたいものです。