バルセロナの財政について【2019/20】

お久しぶりです。会計見習いです。

今回の記事ではバルサの2019/20の財務諸表を解説していこうと思います。バルサの財政状況については過去にも執筆しているので、そちらもぜひご覧ください。

 

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1. 損益計算書の比較(2019/20 & 2018/19)

 

損益計算書とは、企業が1年間(会計期間)にどれだけの利益を生み出しているかを示す表です。

最初に使用するのは、2019/20と2018/19シーズンの損益計算書です。2019/20ならば2019年7月1日から2020年6月30日2018/19ならば2018年7月1日から2019年6月30日までが会計期間です。

 

それでは、損益計算書を見ていきましょう。

 

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用語の定義

EBITDA = 売上高 + 営業費用

減価償却費: 固定資産にかかる毎年定額で計上する費用。

金融損益: 主に借金の利息の収入と支出を合算したもの。収入>支出なら+、逆なら−。

固定資産関連: 選手登録権以外の固定資産の売却による損益、および評価損益。

当期純利益 = EBITDA + 減価償却費 + 金融収支 + 選手売却による利益 + 法人税

※赤色の数字はマイナス

※過去の記事とは各用語の該当項目を若干変更しているため、数値が一部異なります。

 

まず、当期純利益に着目すると€90.3mの赤字です。バルサの発表によると、感染症の影響がなければ€2.0mの黒字を記録していたようです。どの項目が赤字に作用したのかを見ていきましょう。

売上高は€860.4mから€730.5mに下落しました。項目別でも、その他営業収益以外の項目でシーズン中断の影響を確認できます。7月以降に延期された試合に関する収益は、2020/21で計上されます。

営業費用も€786.1mから€711.3mに減少しています。給料に関しては、昨年3月に選手と合意した給料削減の影響が見られます。試合開催に関するコストが含まれるその他営業費用もシーズンが中断したことで減少しています。

EBITDAは€19.2mの黒字です。この時点ではまずまずのように思われますが、前年比では−€55.0mです。

減価償却費は€192.0mを記録し、2018/19の€159.9mから大幅に増加しました。主な増加要因は選手登録権の減価償却費です。この項目は選手獲得にかかった移籍金を契約年数で費用計上するものです。2019年夏にグリーズマンやデヨングなどの大型補強を敢行したため、数字が急増したと考えられます。

金融損益は−€28.2mで、2018/19から倍増しています。バルサは直近2期で有利子負債が増加しているので、支払利息も増加したと思われます。

固定資産関連は−0.2mです。数字が大きくないので、注視する必要はないと思います。

選手売却による利益は€73.3mです。アルトゥールとピャニッチのトレードで発生した利益はこの項目に含まれます。トレードによる予想収益が€59.3mでしたので、トレードの影響の大きさを確認できる数字ですね。

 

全体を振り返ると、主要項目の大半で感染症の影響が読み取れる結果でした。例外として挙げられるのは減価償却費(と選手売却による利益)です。選手獲得で増加する項目は給料と減価償却費ですが、給料は削減できても、減価償却費は簡単に削減できないという性質の違いが露わになりました。減価償却費を削減するには選手を売却するしかありません。2018/19の時点で収益に対して減価償却費が大きすぎるのは課題でしたので、感染症が追い討ちをかける形になったようにも思います。

 

次に、2020/21(予算)と2019/20の損益計算書を比較していきます。予算は実際の数字とかけ離れることが多いですが、今後の展望を理解するのに役立つと考えられます。

 

2. 損益計算書の比較(2020/21 & 2019/20)

 

それでは、損益計算書を見ていきましょう。用語の定義は変更ありませんが、減価償却費のみ合算して表示しています。

 

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まず、売上高の内訳に着目すると、入場料収入とシーズンチケット/メンバーシップ収入は大幅に減少しています。無観客試合の影響ですね。放映権収入は増加予想です。先述したように、2019/20の延期された試合の収益が2020/21で計上されるためです。商業収入もスポンサー収入の増加に後押しされて増加する見込みです。

営業費用は減少予想です。スアレスなど高給取りの選手の退団や選手と合意済みの給料削減の影響で、給料が一気に減少する見込みです。

減価償却費はほとんど変化していません。コウチーニョグリーズマンなど減価償却費の大きい選手は残留したままであることが原因として考えられます。

当期純利益は€1.2mの黒字予想です。

 

近年のバルサを見る限りでは、この通りに上手くいくとは考えにくいですが、予算上はこのようになっています。減価償却費は依然として負担になるようですね。給料がどこまで削減できるかが個人的には気になります。

 

最後に、現金の流れを確認するためキャッシュ・フロー計算書を見ていきます。

 

3. キャッシュ・フローの推移

 

キャッシュ・フロー(CF)は会計期間における現金の流れを表す概念で、現金が流入すればプラス、流出すればマイナスになります。営業CF、投資CF、財務CFの3種類が存在します。それぞれの簡単な定義は以下の通りです。

営業CF: 通常の営業活動(上記の売上高と営業費用に含まれる項目)による現金の流れ。

投資CF: 選手やその他固定資産の売買による現金の流れ。

財務CF: 社債や株式の発行に関する現金の流れ。

 

以上の合計が全体のCFです。期首現金残高に合計額を加算すれば、期末現金残高になります。

それでは、表を見ていきましょう。

 

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まず、営業CFは−€46.6mで、直近5期で唯一のマイナスです。細かく見ていくと事情は色々あるかと思いますが、減収の影響が大きいと思われます。

投資CFは−€155.2mです。選手の売却以上に補強するほどマイナスになる項目ですので、この数字は納得が行きますね。

財務CFは€205.5mです。この数字からバルサ有利子負債による資金調達を行ったと判断できます。営業CFと投資CFの合計(−€201.8m)を期首現金残高(€158.4m)に加算するとマイナスになるので、資金を調達しなければ現金が尽きることが想像できます。バルサが巨額の資金調達を行ったのは18/19に続いて2期連続です。

 

ちなみに、資金調達に関する返済額の詳細は以下の通りです。

 

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社債と借入金の返済額の合計額は€479.8mです。2019/20の間に増加した債務のほとんどは、2020/21に返済予定の借入金です。2023/24に満期を迎える社債は、2018/19に資金調達した際に発生したものです。今のバルサの財政状況では返済できる額ではありませんので、債権者との間で支払期限の延長交渉が現在進行形で行われています。

 

おわりに

 

以上がバルサの2019/20版の財務諸表でした。近年の大型補強による財政圧迫が読み取れる結果かと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。